2014年3月29日土曜日

正直になって伊賀大介に聞いてみる。第3回


「お前それ似合わねぇな」とか、どこのどの口が言うんだって感じ 



―――またガラッと話が変わるんですけど。伊賀さんの琴線に触れるものってなんですか? 何がおもしろいなって思いますか?

伊賀:前提として言うと、自分で分かってないから面白いんだけどね。

―――あぁ、理解できないものみたいな感じですか。

伊賀:そうそう。で、理解できないもの、っていう理解できなさでもないというかさ。なんか、よく分からないけど「すげえ!」っていう。基本的にはそういうことだよね。だけど、歳をとっていくとさ「あ、これってあれだな」っていうのが増えちゃうじゃん。だから、同時にそれとの戦いでもあるよね。なんで良いのかわかるのが自分の経験であったりもするけど、それってあんまり良くないことかもしれないじゃん。だから、あんまり分からないようにしとくし、すごく若い人のものとかでも、超売れ線でも自分が良いなと思ったら良いって言うようにしてるっていうか。

だいたいさ「あれとか何とかのパクリじゃん」って言ったら何にも面白くなくなっちゃうよね、そりゃ。じゃあ自分が何かをパクったことがないかって言ったら、何かの影響を受けてるわけじゃん。自分の中で箇条書きすればあるの。青春っぽいとか、暴力的とか、男っぽいとか、自分の好きなキーワードっていっぱいあるから。モテない感じとか、ナードな感じ、ロックな感じ、反抗的な感じ、反体制な感じ、とかさ。そういうのが色々あるんだよね。そういうのが多ければ多いほど良いんだけど、無頼な感じとか、酒飲みな感じとか。全部あるんだけど、そういうのを自分の横にメモ書きしておいて、これに合ってるから俺は好きなんだって言ったら面白くないじゃん。まったくそうじゃなくても面白いものとかあるからさ。

―――今まで好きじゃなかったのに急に好きになったりとかありますか?

伊賀:全然あるでしょ。そりゃ全然あるし、毎日変わるよね。だから、毎日変わる事をある種、肯定するよね。もちろん、それは自分の半経2mとかではないよ。だけど、仕事とかで接するものとか、そういうものに関しては全然言ってること変わるなぁと自分で思うからさ。

―――頑固になると変わることに否定的になるじゃないですか。でも柔軟であろうとするとブレて見えることがあるというか。伊賀さんは強く見えますよね。

伊賀:だから、それは計算してない。シンプルなルールが23個あるだけだよね。それはヤクザ映画を見て学んだことというかさ。友達を裏切らないとかその程度のことしかないわけですよ。困るような嘘をつかないとかさ(笑)。すごくシンプルな感じになってくるんだよね(笑)。それ以外はなんでもありっつうか、わかんなよね、それは。俺だってもう37歳のオジサンだけどさ。世の中にこういう物があるんだって影響を色んな文脈ありきで受けるようになってから、言って20年ぐらいだよね。17ぐらいまでは何にも知らないと仮定して。そうだとしても20年だけじゃん。あと5年経ったら全く変わるだろうし。すごく影響を受けてることでも、5年前だったら知らないことっていっぱいあるし。だから、それは全然あるでしょ。これからも。

―――自分は中3のときに、親の友達から「ファッション誌でも読んだら」と言われたことでファッションっていうものを知って、今もこんなことをやってるんですけど。

伊賀:こじらせてるねぇ(笑)。10代とか特に分かりやすいもんね。やってるうちに大人びていくやつもいるしさ、経済力の問題だったりするし。3日連続で遊ぶときに12日ならいいけどさ、3日目はヤバいな、みたいなこととかあるじゃん。

―――ありますね。これ以上は着てったらヤバいなというか(笑)。

伊賀:次の日はデニム同じでアウター同じでいいけど、3日目は流石に変えないとな、みたいなこととかさ。特に10代の時とかは思うじゃん。今は全然なんとも思わないけど。靴ぐらい変えとくかとかさ。

―――やっぱりファッションっていう表現は自己満足の部分が多いですか?

伊賀:完全にそうでしょ。だって、何したって裸じゃなければ怒られないもんね。別にね、迷彩服や、すぐに職務質問を受けそうな右翼みたいな格好してようが、暴走族の特攻服みたいなの着てようが別に捕まったりしないじゃん。それはもうその人たちの自己満足だったりするし、ヤンキーもそうだし、ゴスロリもそうだし、コスプレイヤーもそうだし、俺らみたいなのもそうだし、ユニクロしか着ないやつもそうだしさ。みんなそこで満足してるんだったらそれで良いじゃんみたいなさ。俺が服を職業してるからって他人の普段着に口出すみたいなのはないよね。それは全く別の仕事だしさ、「みんなもっとお洒落したほうがいいよ」とか口が裂けても言えないからさ。なにその角度みたいに感じちゃう。

―――流行させようとしてるというか、売ろうとしすぎてるというか。

伊賀:だから、楽しければいいですねっていうことを言うしかない。だって本を読んでるのが好きな人もいれば、音楽を聞いてるのが好きな人もいれば、絵を描くのが好きな人いれば・・・。こういう文化的なことだけじゃなくてさ、実験とかしてるのが好きな人もいればさ。何でもいるじゃん。自分がどうでもよくてって、子供の世話だけ見てたらいい人も。その人の喜びってあるじゃん。お洒落ならみんなが幸せだみたいなのってさ、「お洒落に対して、なんでそんなに万能感持ってるの?」と思うわけ俺は。こんなにどうでもいいジャンル他にないと思うよ。
 
 だけど、みんな着ないといけないからさ。何に帰属しているかっていうのが人間として生きてると大変だよね、やっぱさ。今だと俺は子供がいるから保育園の集まりとかに黒ずくめで行ったらみんなビビるじゃん。普通ですよっていうことを出していかないといけなかったりするし。だから、そういうことでしかないというか。あのね、お洒落なんかしなくていいよ、その人がよければ。みんなお洒落を楽しんでくださいとか、ほんとに欺瞞だよ。と俺は思う。

―――ありがとうございます。最後になりますが、ファッションという物に伊賀さんはスタイリストとして関わってると思うんですけど、そもそもファッションができることって何だと思いますか?

伊賀:今、色んなこと言ったけど、ファッションっていう言葉とか持ってるものがダメってことじゃないからさ。それを言うやつがお前なんなの? っていうだけの話であってさ。お洒落が正義みたいなのは全くそんなことないですよっていう話を前提に言うと、ファッションが持ってる物とかファッション自体は、すごく面白いと思う。

 俺は妄想壁がすごいからさ、これも例えばの話なんだけど。四年制の大学を出て、東京に出てきました。4月から憧れの企業に就職したはいいけど、あまりにも厳し過ぎると。社会人生活がつらい、なんでこんなに怒られなきゃいけないのと感じてる女の子がアトレとかに行って、「あ、このコートすごく素敵。あたしの好きな水色なの」って思うわけ。で、そのコートを買って着たら元気になるとかあるんだよ。それってファッションの持ってる作用じゃん。

―――間違いなくありますね。

伊賀:そういうことに関してはすごく良いと思う。それ自体に全く罪はないし、「お前それ似合わねぇな」とか、どこのどの口が言うんだって感じだってするじゃん。迷惑かけてないからさ。もちろん度合いにもよりますけど。でも、そういうことって、すごくいっぱいあるから。サッカーのユニフォームが新しいものになったから頑張ろうでも良いし。なんでもいいんだよね。それこそ手編みのマフラーもらったから、このマフラーをしてるとき幸せな気分になるとか。数値とかそういう物で測れないものを持ってると思う。
 
 で、俺の仕事に押しこめばそういうことができるからさ。色んな表現ができるでしょ。俺はこれでプロの道を選んだから、俺に仕事をくれるってことは、服の中での表現で色んな感情とか場面とか状況とかを表現してください、ってことだから。それで仕事をやって今回すごく良かったですよと言われるのはすごく嬉しいからさ。でもファッションを逆にネガティブに使うこともできるわけじゃん?

―――だからファッションと口に出した時に笑われちゃう時もあるじゃないですか。

伊賀:そうそう。だから、ドジっ子OLなんかが服を買ったはいいけど、丈が合ってなくて笑われるっていう場面にもできるわけじゃん。それはスタイリングだからさ。で、似合っちゃって良いねみたいことでもあるしさ。ちょっと古いけど、メガネを取ったら意外と美人みたいなことだって、あんなのはファッションの分かりやすい点だし。だからファッション自体は面白いよ。それこそ太宰治だってそうじゃん。『グッド・バイ』でさ、死のうと思ってたけど、麻の着物を新しい着物があるから、今年の夏まで生きてようと思ったとか。あとは飯とかあると思うよね。なんか食ったら元気が出たとかにすごく近いと思う。だから、それが「あの時の飯で私、救われたんです」っていうのが、高級なフランス料理だと救われてココイチのカレーじゃ駄目なの?って話しですよ。あとは富士そばのかけそばじゃ駄目なの?とかさ。




↑人と被りたくないという伊賀さんの考えが表れているTシャツ。間近で見ると着倒されているのがよく分かる。染めやリメイクも自分で行ったそう。



プロフィール 
伊賀大介いが だいすけ1977年、西新宿生まれ。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22才でスタイリストとしての活動開始。雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、その他諸々「お呼びとあらば即参上」をモットーに労働。下手の横好きながら、文筆業もこなす。(http://band.co.jp/profile/iga/


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