少なくても直接会うより前に僕が想像していたニコラ・フォルミケッティは生粋のファッション業界人だった。次々に真新しいスタイルを提案して世界の流行をけん引する、あの場所で生きる人。そんな人が日本のどこにでもいる若者にどんな話を聞かせてくれるのだろう。ない交ぜになった緊張感と高揚を隠してインタビューはスタート。しかし、終わってみれば質問をする側とされる側が入れ替わり、最後には悩み相談に応えてもらうなんて笑ってしまうような、あっという間の8分間でした。どうぞ肩肘を張らず気楽に読んでみてください!
どんどんどんどん、もっともっと
―――よろしくお願いします。僕、個人でブログをやっているんですよ。
Nicola Formichetti(ニコラ・フォルミケッティ)/以下ニコラ:ブロガーやってるの?
ブログの名前はなんていうの?
―――sirusareru faltusyonn.(記されるファッション。)って言います。
ニコラ:すごーい。真面目(笑)。
―――そうなんですよ、真面目なんです(笑)!
いきなりなんですが、最近の日本のファッションってどうでしょうか?
ニコラ:なってないね。若い子がぜんぜん元気がないって思う。アジアの色んなところに行ったり、外国に住んでいたりするから余計にそれがわかるよ。そうすると、やっぱり区別しちゃうじゃん。中国とかさ、韓国とかインドネシアとかシンガポールとか台湾とかとね。昔に比べて東京の子たちはなんか元気がないよね。だから、僕もこういう(サイン会)ことをやって人と会って、なんでなんだろうって知りたいの。
―――かっこいい・かわいいのところはそうかもしれないですね。でも、最近ファッションについて文章を書いたりするっていうところが盛り上がっているんですよ。
ニコラ:あ、そう! それはどういう文章?
―――たとえば哲学者の思想をもとにブランドを分析してみたりだとか・・・。
ニコラ:へー、いいね。おもしろいね。
―――つまり、学校で勉強しているようなことを参考にしてファッションを見てみる、というような文章ですね。そういうことをやってる人たちがすごく多いんですよ!
ニコラ:僕はそうやって文章を書いている人だとかライターって、スタイリストとか写真家とかと一緒のように、クリエーションをまた別のミディアム(媒体)で表わしているアーティストだと思ってる。だから、そういう人たちがどんどんいなくちゃいけないと思うんだけど、あまりいないよね。
―――今日も電車代をいくらか払えば、レディー・ガガのスタイリストをやっている人に会いに来られるわけじゃないですか。もったいないなと思っちゃいます。
ニコラ:たぶん、みんな若い子たちは、もうこうやって会う必要がなくなってきてるからだと僕は思ってるわけ。
InstagramでLikeしたから、それでOKって。それしか考えられない。だから、デジタルラブっていうかさ、デジタルコミュニケーションっていうのはファッションの死だよね。(インタビュアーの二の腕を掴む)こうやって触って感じるものは、やっぱり違うじゃん。3次元で見るものとフラットなスクリーンで見るものは。でも、それがどうのこうのとかじゃなくて、それはそうだからと納得してやっていかなくちゃいけないんだと思う。
―――本当ですか・・・。でも、さびしいですよね。
ニコラ:うん、さみしい。でも、そこの人たちは変わらないと思う。ただ、たとえば15歳とかのもっと若い子たちはアンチデジタルじゃん。で、向こうの人たちはもっとアナログに、デジタルの機材を使わずに書いたりっていう風になってたりするんだよ。君は日本ではどんなジャーナリストが好き?
―――うーん。
ニコラ:平川さん*1は知ってる?
―――知ってます。平川武治さんですよね。
ニコラ:そう。昔、僕が出たばっかりのとき平川さんにはすごく可愛がってもらっていてさ。「ニコラ来い!」みたいな感じで、いつもいっつも(笑)。でも平川さんはキツイことばかりを書くからファッション界から飛ばされちゃってるからね。本当のことを書くから。でも、それってすごく悲しいことだよね。
―――それが拾われないのはダメだと思います。
ニコラ:平川さんは新聞とか雑誌がだめだって言っちゃったわけね。広告を出してる人の悪口を言ったら広告がもらえなくなっちゃうから。でも、ブログは新しい雑誌だから、どんどんどんどん、もっともっとキツイことだとか、キツイことっていうか本物のことを言ってほしい。
―――お金がかからないところだからこそですよね。
ニコラ:でもさ、すぐだよ。わかんないけど、明日どっかの大きい会社からお金もらっちゃったら、その会社のことをよく書いちゃうでしょ?
―――・・・書いちゃいます。
ニコラ:そしたら、またみんなと変わらなくなっちゃうんだよね。だから、反対にブログはいま一番、”簡単に安く”買えるメディアだって言われてる。そういう人たちもいっぱい出てきてるからこそ、そこはうまく進んでいかなきゃいけない。
―――その通りです。
ニコラ:これから何をしたいの?
―――僕、就職活動をしようとも思ってるんです。
ニコラ:うん。このライターっていうのが一番やっていけない仕事だからね。僕のまわりにもライターとかジャーナリストの友達はいっぱいいるけど、一番大変な暮らしをしてる人たち。一番。
だって目に見えないじゃん、写真でもないし。
―――そうなんです。編集者ばかりが目立って実際に書いてるのは誰なんだろうってなっちゃうから。
ニコラ:そう。ただ、これからウェブが進んでいったら絶対に新しい仕事が出てくると思うけどね。まぁ、どうやっていくかは・・・・・・自分で決めてください(笑)!
アッハッハッ!
―――はい(笑)!
どうも、ありがとうございました!
ニコラ:ありがとう。
- 平川武治:ひらかわたけじ・・・ファッション批評家。1978年からモードの世界へ。1984年からパリコレクションを見続け、海外の美術大学や企業などが主催するコンテストの審査や、企画展のキュレーションに携わる。「ファッションとは自由の産物であり、時代の最表層である。良いクリエーションは良いビジネスを生む」という視点に立ち、率直かつ辛口な評論活動を行う。
プロフィール
Nicola Formichetti(ニコラ・フォルミケッティ):1977年5月31日生まれ。静岡県沼津市出身。イタリア人の父と日本人の母を持つファッションデザイナー・ファッションディレクター。ミュグレー(MUGLER)クリエイティブディレクター、レディー・ガガ(LADY GAGA)のスタイリスト、『VOGUE HOMME JAPAN』、『V MAGAZINE』ファッションディレクター、UNIQLOファッションディレクターを務めている。
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