2012年6月12日火曜日

物語り尽くすための展示会――writtenafterwards fashion photo exhibition “I find everyone 2011 5 / 5″



 
今年の55日。こどもの日。
原宿のVACANTwrittenafterwards(以下リトゥン)による「ドミノファッション写真展2012S/Sが開催されたのをご存知だろうか。内容は同ブランドが昨年発表した「秘密のファションショー 2012 S/S」(201155日) の最中に2012 55日 へと日付が変えて撮影された未来写真を、実際の日時に合わせ公開するイベントであった。

ドミノ写真展が一日限定の催しだったのにくらべ、長期間にわたり展示することを趣旨としたのが恵比寿のギャラリーショップI FIND EVERYTHINGで開かれている「writtenafterwards fashion photo exhibition “I find everyone 2011 5 / 5″」だ。




壁一面に飾り付けられた色鮮やかなドミノ。

実はこれら、驚くことにすべて写真立てで出来ている。リトゥンは2012S/Sシーズン、会場へ招いた人々をモデルとしてファッションショーに組み込む特異なコレクションを行った。写真立ての中に収められているのは500人の参加者たちがランウェイを歩いている様子だ。

2回行われるコレクションは翌年に販売する商品の見本展示会としての側面が大きい。その呼び方からも分かるように、発表されたアイテムがそのまま店頭に並ぶのではなく、顧客からの発注を受けて製作がはじまり商品としての体裁が整えられる。よって消費者の手に届くまでにはどうしてもタイムラグが生じてしまうのだけれど、リトゥンの山縣良和は提示から提供の間にある時間のずれを巧みに繋げてみせた。

どのようにしてか。結末の先延ばしによって、である。
現在、開催中の“I find everyone 2011 5 / 5″は昨年のショーのコンセプトをうけて派生してきており、新たな意図から行われてはいない。未来写真の撮影日がショー当日からちょうど一年後に設定されていたことを推し量れば、すでに構想を練ってあったものだと考えられる。

開いた幕が2012年の5月5日までは閉じないと明かされている以上、物語を記憶の底に沈めてはおけない。必要になってくるのは思い出を語りなおすための回想シーンではなく、語られている話題を尽くす仕組み。それがこの展示会の役割に他ならないだろう。

長いようで短い時間差を埋めたのち、撮影された人々はエンドロールにあらわれた過去の、――未来写真という設定を顧みれば――現在のわたしとして、もう一人の自分の静止画に初めて対面することになる。ショーへ足を運ばれた方は予想通りの姿かどうかを、運ばれていない方は描写の正体を会場で見届けてほしい。




服作りのテーマに物語を用いた例を並べるのは簡単だ。それ以前に物語から始まったファッションブランドも知っている。しかし、表現方法の外部に、商品を市場に供給するまでの過程に物語性を付けくわえた例を少なくとも僕は思い出すことができない。

写真に浮かぶ人々の顔の形や装っている衣服の差に関わりなく、一様に見せる笑顔が強く印象に残った。そこには「装うことのいとおしさを伝え、流行の成り立ちや本質を伝えること」というwrittenafterwardsの目指すクリエーションが確かに写しだされている。



展示会期間は今月17日まで。

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